ブルー・カーペット|曲から生まれた短編小説

はじめに

拙作「ブルー・カーペット」という楽曲から生まれた短編小説です。

誰かの人生を眺めるように、
遠くの光を見ている時間があります。
それを憧れと呼ぶのかどうか、確信はありません。

ただ、その距離感ごと、
言葉にしてみたいと思いました。

読み終えたあと、
胸のどこかに引っかかるものが残れば嬉しいです。


1. 別の世界の光

夜、部屋の明かりを落としたまま、葵はスマートフォンを眺めていた。
ニュースアプリの動画が自動再生される。音は出していない。
画面の中では、ドレスやスーツに身を包んだ人々が、赤い絨毯の上をゆっくりと歩いていた。

フラッシュが瞬き、誰かが誰かに微笑みかける。
祝福されるために用意された空間。
葵はそれを、感情のない視線で見ていた。

画面を見続けているうちに、目の奥がじんと痛んだ。
フラッシュの白が、わずかに残像として残る。
葵は無意識に肩をすくめ、指で画面をスクロールした。

次のニュース、次の映像。
どれも自分の生活とは関係がないはずなのに、
なぜか、すぐに閉じることができなかった。

惹かれているわけではない。
憧れているとも言い切れない。
ただ、そこが自分とは違う世界だということだけは、はっきりとわかる。

葵には富もなければ、何かを一瞬で変えてしまうような才能もない。
今いるこの部屋、白い壁と最低限の家具。
ここが、今の自分にとっての現実だ。

それなりに名前の知れた大学を出て、
それなりに名前の知れた会社に勤めている。
営業成績は安定していて、社内で表彰されたこともある。

失敗の少ない人生だった。
優等生、と言われる側の人間だった。

それでも、いつも心のどこかが満たされない。
ぽっかりと空いた空洞のようなものが、自分の中にあることだけは、ずっと気づいていた。

それが何なのか、考えないようにしてきた。
考えたところで、答えは出ないと思っていたからだ。

スマートフォンを伏せ、目を閉じる。
眠りは、思ったより早く訪れた。


2. 青い道を走る

目を開けると、葵は夜の都会に立っていた。

ネオンは煌々と輝いているのに、街は異様なほど静かだった。
車の音も、人の声もない。
ただ、高く伸びるビルの影が、冷たい空気の中に沈んでいる。

──これは夢だ。

そう思いながら歩き出す。
けれど、街はとてつもなく広く、どこまでも続いていた。
自分の足音だけが、空洞のように響く。

そのとき、遠くで微かに青い光が揺れた。

近づくにつれ、それは一本の道のように見えてきた。
青く光る絨毯。
ブルー・カーペット。

それは地上から、空へ向かってまっすぐに伸びていた。
夜空が、葵を呼んでいるように見えた。

──こちらに来て。

葵は、恐る恐る足を乗せる。
思ったよりも、確かな感触があった。
沈まない。崩れない。

一歩、踏み出す。
次の瞬間、自然と走り出していた。

走るのは、想像以上に苦しかった。
夢のはずなのに、呼吸は乱れ、胸が焼けるように痛む。
それでも、足だけは前に出ることをやめなかった。
腕を振り、息を整えながら進む。

ゴールは見えない。
それでも、止まるわけにはいかなかった。

カーペットを外れれば、空から街へ落ちてしまう。
ただまっすぐ、前だけを見て進むしかない。

ふと、足元の縁が視界に入る。
その向こうには、光に満ちた街が、はるか下に広がっていた。

落ちたらどうなるのか。
想像しようとした瞬間、身体が強張る。
葵は慌てて視線を前に戻し、
何も考えないように、呼吸だけに意識を向けた。

汗が頬を伝い、足が重くなっていく。
それでも、葵は走り続けた。


3. 失われた呼吸

胸の痛みが、記憶を引きずり出す。

子どもの頃、葵には夢があった。
バレエをやっていた。

ある日、教室に外部講師として、世界で活躍する日本人バレリーナがやって来た。
その踊りは、これまで見てきたものとはまるで違っていた。

身体が、音楽と一体になっていた。
呼吸さえ、踊りの一部だった。

その日から、葵は夢中になった。
ビデオを買い、公演を観に行き、
「自分もああなりたい」と、疑いなく思っていた。

けれど、続けるほどに現実が見えてくる。
努力だけでは届かない場所がある。
環境、体格、持って生まれたもの。

真剣になればなるほど、埋められない差が浮き彫りになる。
いつしか、感情に蓋をした。

気づけば、走る息は荒く、リズムも崩れていた。
視界が霞み、足に力が入らない。

それでも、葵は立ち止まらなかった。

「負けたくない」

声にならない声が、胸の奥から湧き上がる。
大声をあげ、目を見開く。

ここで諦めたら、
一生、この先には辿り着けない。

自分の呼吸を聞きながら、
自分と向き合い、
自分と戦う。

二度と、大切なものを失わないように。

青い絨毯は、夜を包み、夢を隠し、
それでもなお、葵を空へ導いていた。

幻想が、世界を染める。
私を染める。
心を、青く。


4. 朝の色

目を開けると、天井があった。

見慣れた白い天井。
カーテンの隙間から、薄い朝の光が差し込んでいる。
どこにもネオンはなく、空へ伸びる絨毯もない。

夢だった。
そう思おうとして、胸に残る息の苦しさに気づく。

呼吸が、まだ整っていない。
喉の奥が乾いていて、心臓の音がやけに大きい。

葵はゆっくりと上半身を起こした。
手のひらを見る。
何かを強く握っていたような感覚だけが、残っている。

──走っていた。

理由も、行き先もわからないまま。
それでも、確かに「行かなければならない場所」があった。

カーテンを開ける。
朝焼けが、街を淡く染めていた。
夜とは違う色。
けれど、どこか青に近い。

スマートフォンが震える。
通知。
今日の予定。
会議、訪問、数字。

いつもの一日が、何事もなかったように待っている。

それでも、何かが違っていた。

呼吸を、意識してしまう。
歩くとき、足の裏の感覚を確かめてしまう。
身体が、まだ夢の続きにいるようだった。

洗面台の鏡に映る自分を見る。
変わったところは、何もない。
それでも、目だけが、少し違う気がした。

歯を磨きながら、ふと頭をよぎる。
子どもの頃、音楽に合わせて身体を動かしていた感覚。
上手いとか下手とか、関係なく、
ただ、呼吸と動きがつながっていた時間。

忘れたと思っていた。
忘れたふりをしていた。

出勤の準備を終え、玄関で靴を履く。
ドアノブに手をかけたまま、少しだけ立ち止まる。

世界は、何も変わっていない。
レッドカーペットは、今日もニュースの中にあるだろう。
自分は、そこを歩く人間ではない。

それでも。

──一歩、踏み出すことはできる。

空へ続く道じゃなくてもいい。
拍手も、フラッシュもなくていい。

ただ、自分の呼吸を失わないように。

ドアを開けると、朝の空気が流れ込んできた。
街はもう、動き始めている。

駅へ向かう道で、同じ方向に歩く人たちの流れに身を任せる。
けれど、その歩調が、わずかに速すぎる気がした。

葵は一度だけ、意識して息を吸い、吐く。
胸の奥で、何かが整うのを待つように。
その間だけ、世界の音が少し遠ざかった。

青い絨毯は、どこにも見えない。
けれど、胸の奥に、かすかな色だけが残っていた。

それは、まだ名前のついていない感情だった。


ブルー・カーペット

ブルー・カーペット 夜を包んで
眠らない街が 夢を隠す
浮かぶシルエット この空の向こうで
幻想が 世界を染めた

ビルの隙間に 光る星
誰かの嘘と 眠る意志
冷たい風に 名前を呼ばれ
届かぬ声を 胸に閉じた

見慣れた景色が 揺らいでる
心の中まで ビルが伸びる
まっすぐ歩けと 誰かが言うけど
選ぶのは この足だけ

ブルー・カーペット 夜を覆い隠して
それぞれの願いが 姿を消す
いびつなラスト 不確かな未来へ
幻想が 私を染めた

都会のサイレンと 止まぬ雑踏
人の噂と 氷の塔
あはれこの世は 皮肉に満ちて
声は風に 溶けていった

A single breath can shift the stars.
One step is all it takes...

ブルー・カーペット 夜を満たして
狂った時計が 闇を打つ
不安とリグレット 広がる宇宙へ
幻想が 心を染めた

ダンスを踊れ
朝焼けをバックに
青く塗りつぶせ
この感情
創造
愛憎
無常…

ブルー・カーペット 夜を包んで
眠らない街が 夢を隠す

ブルー・カーペット 夢を壊して
眠らない街が 消されていく
浮かぶシルエット この空の向こうで
幻想が 世界を染めた
私を染めた
心を染めて

Bluepiece Lab.「ブルー・カーペット」歌詞

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音楽から生まれた物語を、これからも書いていきます😊

Bluepiece Lab.
Bluepiece Lab.

AIを使ったクリエイティブを行うプロジェクト。
音楽や小説を中心に、作品全体を「ひとつの物語」として構築することにこだわっています。
技術よりも感情、効率よりも余韻を大切に制作しています。

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