この街の朝は、いつも同じ色をしている。
彼女はそう記憶していた。
青でも灰でもない、判断を必要としない色だ。
彼女は多くを話さない。
話す前に、考えることが多すぎた。
考えた末に、言葉を選ばないことも多かった。
世界はよくできている。
世代ごとの役割も、思想の分布も、
組織と政治の摩擦も、
家族という単位の歪みさえ、
すべて想定の範囲に収まっているように見えた。
それでも彼女は、
その整合性が正しさと同義なのかどうか、
いつも確信を持てずにいた。
ベースを背負って歩く帰り道、
舗道の色が、少しだけ沈んで見えた。
理由は分からない。
ただ、街が以前よりも冷たく、遠くに感じられた。
路地の隅に、猫がいた。
痩せてもおらず、警戒もしていない。
ただ、そこに留まっていた。
彼女は立ち止まり、
無意識に手を差し出した。
猫は動かなかった。
その一瞬、街の色が、はっきりと青に傾いた。
彼女は小さく笑った。
猫は動かず、 彼女の手のひらだけを見ていた。


































スピードを信じている。
迷う前に、アクセルを踏むタイプだ。
早いマシンと、強い音が好き。
立ち止まるくらいなら、視点を失ったまま走り続けることを選ぶ。
このバンドの進行方向は、彼女の声が決めている。
ほとんど喋らない。
言葉よりも、低い音のほうが正確だから。
普段は漫画を読んでいる。
ページをめくるリズムと、ベースラインは、どこか似ている。
感情は、音の奥に沈んでいる。
だいたい何でもできる。
だから、どこにも縛られない。
兄貴分として慕われているが、本人はあまり気にしていない。
気が向いたときに現れて、いちばん自由な音を置いていく。
ピアノは、いちばん古い言語。
それ以外は、あとから覚えた。
ゲームとアニメと、現実の区別が、少し曖昧。
正確で、静かな音。
彼のキーボードは、この世界を少しだけ柔らかくする。
この中で、いちばん長く生きている。
冗談は古いが、リズムは新しい。
余計なことを言いながら、誰よりも正確に時間を刻む。
バンドが壊れずに走れるのは、彼が、時間を裏切らないからだ。
長い間、ファンクタウンにいた。
表舞台には出てこない。
このメンバーを集めた理由は、今も語られていない。
街が正常だった頃も、歪み始めた頃も、彼はそこにいたらしい。
「アンビバレント・ブルー」は、矛盾や違和感を抱えたまま生きる感覚をテーマにした楽曲です。正しさや常識が更新されるたび、これまでの経験や価値観が、急に頼りなく見えてしまう瞬間は、歴史が動くたびに繰り返されてきたものだと思います。
今を生きる自分も、やがては時代遅れと呼ばれる側に立つのかもしれません。世界が変わり続けるからこそ、そのズレや齟齬は避けられず、善悪だけでは測れない揺れが残り続けます。
この曲は、矛盾を断ち切るための答えではありません。混乱の中にいることを自覚しながら、それでも更新し続けようとする意志――そんな静かな強さを、自分自身に言い聞かせるために作りました。
この楽曲が、正しさを決めるためのものではなく、曖昧さの中に立ち尽くす時間を、静かに許す存在であればと思います。
— maurice blue
Producer / Bluepiece Lab.
Single