ファンク・タウンでは、すべての出来事に名前がついている。
発生時刻、持続時間、影響範囲。
街はそれらを数値に変換し、静かに保存してきた。
誰もその仕組みを疑ったことがなかった。
少なくとも、街に暮らす限りは。
疑う必要がなかった、というほうが正しい。
偶然は統計誤差として処理され、
誤差はすぐに修正される。
世界はいつも、次に何が起こるかを知っていた。
ある日、信号待ちのあいだに、音がずれた。
ほんの一拍。
遅れたのか、先走ったのか、彼には判断できなかった。
だが、その瞬間だけ、街の輪郭が揺らいだ。
記録装置は沈黙していた。
エラー表示も、修正の兆候もない。
それなのに彼の身体だけが、
そのずれを覚えていた。
――この音は、どこにも登録されていない。
彼はそう思い、
そして初めて、街が未来を待っているように感じた。


































スピードを信じている。
迷う前に、アクセルを踏むタイプだ。
早いマシンと、強い音が好き。
立ち止まるくらいなら、視点を失ったまま走り続けることを選ぶ。
このバンドの進行方向は、彼女の声が決めている。
ほとんど喋らない。
言葉よりも、低い音のほうが正確だから。
普段は漫画を読んでいる。
ページをめくるリズムと、ベースラインは、どこか似ている。
感情は、音の奥に沈んでいる。
だいたい何でもできる。
だから、どこにも縛られない。
兄貴分として慕われているが、本人はあまり気にしていない。
気が向いたときに現れて、いちばん自由な音を置いていく。
ピアノは、いちばん古い言語。
それ以外は、あとから覚えた。
ゲームとアニメと、現実の区別が、少し曖昧。
正確で、静かな音。
彼のキーボードは、この世界を少しだけ柔らかくする。
この中で、いちばん長く生きている。
冗談は古いが、リズムは新しい。
余計なことを言いながら、誰よりも正確に時間を刻む。
バンドが壊れずに走れるのは、彼が、時間を裏切らないからだ。
長い間、ファンクタウンにいた。
表舞台には出てこない。
このメンバーを集めた理由は、今も語られていない。
街が正常だった頃も、歪み始めた頃も、彼はそこにいたらしい。
「ファンク・タウン」は、精巧に設計された近未来都市を舞台にした楽曲です。そこでは、起こる出来事のすべてが解析可能で、偶然は存在しません。誰も排除されることなく、平等と正義のもとで仕組みは正しく動き続けています。
一見すると、その街は理想郷のようにも見えます。けれど同時に、選択や迷いが不要になった世界は、自由を手放したディストピアでもあるのかもしれません。
この街の均衡を揺るがすのは、「進化」です。それは革命のような大きな出来事ではなく、ほんの僅かな物音や、説明のつかない違和感から始まります。
完璧なシステムとは、進化を止めたときにのみ成立するものだと思っています。けれど、世界が更新され続ける以上、完璧はあり得ません。進化は痛みを伴いながら、既存の仕組みを上書きしていきます。
それでも私たちは、その揺らぎと向き合いながら生きていく。「ファンク・タウン」は、正しさを断定するための曲ではありません。秩序が崩れ始める瞬間に鳴るリズムとして、この都市の中に、そっと置いておきたい音楽です。
— maurice blue
Producer / Bluepiece Lab.
Single