夕暮れ時になると、街はゆっくりと形を変える。
昼の輪郭が溶け、夜の活気が準備を始める時間だ。
光は増えているはずなのに、色は一段深くなる。
彼はその時間が嫌いではなかった。
判断を急がされない。
まだ何も始まっていないのに、
すべてが動き出す予感だけが、街に満ちている。
彼の指は、いつも何かを探している。
鍵盤か、ゲームか。
音か、数値か。
違いはほとんどなかった。
ゲームの画面は、すべてが整理されていた。
勝率、分岐、最適解。
無駄を削ぎ落とし、最も効率の良い手順だけが残る。
それを見つける瞬間が、彼は好きだった。
だが、その夕暮れ、どこかに引っかかりがあった。
致命的なエラーが潜んでいる。
そう感じた。
ただし、それは画面の中ではなかった。
彼は指を止め、顔を上げる。
空はすでに夜に近づいているのに、
街はこれから目を覚ますところだった。
光が増え、音が重なり、
人の流れが加速していく。
それでも、何かが合っていない。
――この街は、いつからこうだった?
答えは出なかった。
ただ、夕暮れの空の下で、彼は初めて、
解析できないノイズが街に混じっていることを知った。
理由は分からないまま、
視界の端が、わずかに滲んだ。


































スピードを信じている。
迷う前に、アクセルを踏むタイプだ。
早いマシンと、強い音が好き。
立ち止まるくらいなら、視点を失ったまま走り続けることを選ぶ。
このバンドの進行方向は、彼女の声が決めている。
ほとんど喋らない。
言葉よりも、低い音のほうが正確だから。
普段は漫画を読んでいる。
ページをめくるリズムと、ベースラインは、どこか似ている。
感情は、音の奥に沈んでいる。
だいたい何でもできる。
だから、どこにも縛られない。
兄貴分として慕われているが、本人はあまり気にしていない。
気が向いたときに現れて、いちばん自由な音を置いていく。
ピアノは、いちばん古い言語。
それ以外は、あとから覚えた。
ゲームとアニメと、現実の区別が、少し曖昧。
正確で、静かな音。
彼のキーボードは、この世界を少しだけ柔らかくする。
この中で、いちばん長く生きている。
冗談は古いが、リズムは新しい。
余計なことを言いながら、誰よりも正確に時間を刻む。
バンドが壊れずに走れるのは、彼が、時間を裏切らないからだ。
長い間、ファンクタウンにいた。
表舞台には出てこない。
このメンバーを集めた理由は、今も語られていない。
街が正常だった頃も、歪み始めた頃も、彼はそこにいたらしい。
「ゆふされば」は、夕暮れという時間の持つ曖昧さをテーマにした楽曲です。一日の終わりであり、夜の始まりでもあるその境界には、判断を保留したまま漂うような感情が、いつも残されています。
この曲は、百人一首に詠まれた「夕されば 門田の稲葉おとづれて――」という一句から着想を得て制作しました。およそ千年前の言葉でありながら、風や匂い、光の移ろいが、今も鮮やかに立ち上がります。
夕暮れは、まだ整列しきらない心の揺れが、ふと滲み出てくる時間でもあります。「ゆふされば」は、その揺れの中で立ち止まるための音楽です。何かを決断するためでも、答えを見つけるためでもありません。
アルバム全体の中では、最も余白の多い一曲かもしれません。だからこそ、聴く人それぞれの時間や記憶と、自由につながっていく余地を残したいと思いました。
夕暮れのように、はっきりと名づけられないまま、それでも確かにそこにあるもの。「ゆふされば」は、そんな感覚を信じるための曲です。
— maurice blue
Producer / Bluepiece Lab.
Song